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<編集部からのコメント>
これまでそれなりの期間、住宅ローンに関連するニュースや情報、統計等をご案内してきましたが、それでもまだよく分からないものが「住宅ローンの破綻率」です。
住宅ローンの検討に際して情報収集してみると、取引を進めたい不動産業者や銀行を除けば、「借りるリスク」に対して注意喚起をする記事・本・専門家のコメントに数多く出会います。
借りるリスクにはいろいろあるわけですが、最も一般的なものは以下3つでしょうか。
・将来の収入に対するリスク
・将来の支出に対するリスク
・金利が上昇するリスク
1つ目はもちろん、将来の収入が、転職・休職・リストラ・健康悪化・業績悪化等の理由により減ってしまうリスクです。
2つ目はその逆で、子育て・教育関連など、将来の支出が増えてしまうリスクです。準備不足の場合もあるでしょうけれど、思いがけず子どもが増えた、というようなサプライズに伴うものもあるかもしれません。
3つ目の金利上昇リスクについては、当サイトでは世間一般よりかなり冷静に考えておりますが、しかしもちろん全くないわけではありませんので、金利が低いうちに積極的に繰り上げ返済を進める等の、最低限の対策は必要です。
そのように住宅ローンはとにかく金額が大きいので、さまざまなリスクに対して一定の考慮が必要と言えますが、しかしそれでも釈然としない方はおられるかもしれません。
と言うのも上記の通り、住宅ローンの破綻率が開示されていないからですね。
こうしたリスクというのが、10%の話なのか、1%の話なのか、0.1%の話なのかで随分と事情は変わってきます。
変動金利タイプの金利が概ね1%を切ってきているほか、保証会社を利用した場合の保証料が年0.2%程度になっていることを考えると、おそらく0.1%〜0.2%程度なのではないかと思っておりましたが、上記コラムでは住宅ローンの破綻は100世帯中、2〜3世帯、つまり2〜3%と指摘しています。
さすがに高すぎではないかと思いますが、この根拠は一体何なのでしょうか?
と言うことで読み進めると、住宅金融支援機構のディスクロージャー誌に、「実際に破たんした人(≒破綻先債権)は平成23年度、24年度とも0.4%」と記載されていた、ということです。
ディスクロージャー誌=情報公開誌のデータを活用するとはなかなか冴えていますね!
もう少し詳しく調べるとこのような内訳になっています。
・延滞債権 : 5,801億円
・3ヶ月以上延滞債権 : 1,469億円
・破綻先債権 : 1,113億円
トータルの残高は2兆8,175億円ですので、まずこれらの「滞っている住宅ローン残高」の比率は2.98%ということになります。
この数字だけを見ればたしかに「100世帯に3軒」と言えますが、ただ滞っている住宅ローン全額が破綻してしまうわけではありません。
なぜなら住宅ローンは必ずその住んでいる家が担保となっているわけで、どうしても返済しきれなくなると金融機関は最終的にはその家を売却して住宅ローン元本の回収をはかることになります。
住宅ローンを借りている方からすれば、自宅を手放さないといけなくなった時点ですでに「破綻だ」とお考えになるかもしれませんが、「本当の破綻」はやはり、自宅を手放しても借金が残ってしまうケースではないかと思います。
ではその本当に破綻してしまった住宅ローン残高は何と呼ばれているかと言えば上記内訳の中では「破綻先債権」がそれにあたります。まさに破綻してしまった方々への住宅ローン残額ということですね。
そんなわけで、コラムの筆者の方もご指摘のとおり、住宅金融支援機構の住宅ローンの「破綻率」は概ね1,113億円÷2兆8,175億円=0.4%ということになります。
ただ実際にはこれは残高ベースですので、件数ベースにすれば異なってくることに加え、住宅金融支援機構の貸出先は個人以外にもあると思いますので、それも変数となってくるとは思いますが、それでも「当たらずとも遠からず」のそれなりに説得力のある数字ではないかと思います。
なので結論としては、住宅ローンの破綻率はおよそ0.4%・・・と終わりたいところですが、繰り返しになりますが上記コラムではその後の計算により、2.7%と7倍近くにまで跳ね上がっています。
一体、どういう計算をしたのでしょうか?
ということで続きを読むと、住宅ローン全体の中のフラット35のシェアは14.9%ということなのですが、なぜか破綻率をそのシェアで割戻し、破綻率0.4%÷フラット35のシェア14.9%=2.7%という計算をしてしまっています。
もちろんこれは間違いですね・・・。
「率はあくまで率」なので、フラット35の破綻率が0.4%なら、全体の破綻率も同じような数字になるはずです。
これが率ではなく、「額」ということであれば、破綻先債権1,113億円÷フラット35のシェア14.9%=全住宅ローンの破綻先債権7,470億円という計算が成り立つわけですが・・・。
と、お後はあまりよろしくないのですが、とは言え繰り返しになりますが、ディスクロージャー情報を活用するのは良いアイデアですね。
そんなわけで、貸し出しがほぼ住宅ローンだけのソニー銀行と住信SBIネット銀行の数値をチェックしてみるとこうなっています。
・ソニー銀行の破綻率
ローン残高 : 1兆95億円
破綻先債権 : 3億62百万円
破綻率 = 0.04%
・住信SBIネット銀行の破綻率
ローン残高 : 1兆273億円
破綻先債権 : 1億31百万円
破綻率 = 0.01%
何とこちらは住宅金融支援機構の0.4%から一桁少ない水準となっていますね!低金利の住宅ローンを提供できるはずですね。
ではなぜこれらのネット銀行は破綻率が少ないのでしょうか?理由として考えられるのはこうした要因です。
1.審査が厳しめである。
2.バブルが完全に崩壊し、地価が下がりきった時から住宅ローンビジネスを開始したため、仮に破綻しても担保物件を売却すればほぼ回収できてしまう。
3.ビジネスがまだ若く、本格的に住宅ローン利用者が破綻してくるのはこれからである。
いかがでしょう?これまた当たらずとも遠からずなのではないでしょうか。
気になるとすれば3の、「これから利用者が破綻してくる」という事態ですが、より住宅ローンビジネスの歴史が古いソニー銀行の破綻率が住信SBIネット銀行の4倍ある点もそれが正しいことを示唆しているような気がします。
とは言えそれでも住宅金融支援機構の数値の10分の1であり、1と2の要因も大きいのでしょうね・・・。
と言うわけで長くなりましたが、住宅ローンの破綻率については今のところ
・延滞など返済トラブルが発生する確率 : 3%(残高ベース)
・自宅を売却しても 住宅ローンが残ってしまう「完全破綻」率 : 0.04%〜0.4%(残高ベース)
という水準と考えることができます。
慢心するわけにはいきませんが、「脅かされるほどには高くない」とは言えるのかもしれませんね。
参考になさってください。